今、この記事をご覧になっている方は、何か心当たりがあって、梅毒に感染しているのではないかと心配されているのではないでしょうか。
泌尿器科専門医である私が普段診療している中でも、梅毒の患者様が明らかに増えているのを実感しています。
梅毒はあらゆる臓器に炎症を引き起こすため、他の疾患と紛らわしく、the great imitator（偽装の達人）と呼ばれています。
☑️ 梅毒感染者数の現状
梅毒は2011年ごろから年々増加していましたが、2018年をピークにして、それ以降は減少していました。しかし、2021年には再び増加の傾向に転じており、2021年には男性5,261例、女性2,717例で、2000年以降最も多い数字となりました。
▶︎前回の記事「コロナ禍で急増した性病についての考察 」でも書かせていただきましたが、梅毒だけにかかわらず、性病はコロナ禍で増加したというデータがあるのです。
そして梅毒は2022年になっても増加の一途を辿り、感染者数はおよそ1万3000人となっています。
☑️ そもそも梅毒とは
梅毒とは梅毒トレポネーマという細菌に感染することによって引き起こされる感染症です。梅毒トレポネーマは粘膜や皮膚の小さな傷から侵入します。性行為（口や肛門を介した行為も含む）や血液などから感染するほか、母子感染もあります。
第1期梅毒
感染機会から3週間〜3ヶ月程度の潜伏期間ののちに発症します。
肛門、膣、陰茎、唇など細菌が侵入した場所に潰瘍（皮膚がただれたようになること）やシコリができます。この症状は治療しなくても2〜3週間で自然に治ってしまうので、「一時的な皮膚の炎症だった」「気のせいだった」と医療機関を受診しない方が多いです。また、痛みや痒みを伴わないため、症状にすら気付かない場合も多いのです。
第2期梅毒
感染機会から3ヶ月〜3年の状態を言います。1期の症状を治療しないで経過した場合、梅毒トレポネーマは血流に乗って全身へ移行し、この時期に特徴的な症状のバラ疹というものが現れます。バラ疹とは手のひらや手の甲、足の裏、身体全体に出現するバラの花が咲いたような発疹のことを言います。
また、発熱や倦怠感、全身のリンパ節の主張などが出たりします。これらの第２期の症状は出たり消えたりを繰り返しながらやがてまた自然に消失します。
第３期梅毒
治療をせずに経過し、感染機会から3年くらい経つとゴム腫（ゴムのような腫瘍）が出現します。ゴム腫は皮膚だけではなく、筋肉や骨にまで出現します。
ほとんどのケースで、第２期までに医療機関を受診されますので、現在では第３期・第４期の患者様は稀です。
第4期梅毒
梅毒の末期症状で、神経や心臓、脳まで侵され、最悪の場合には命に関わります。
☑️ 他の感染症との同時感染
性感染症診断・治療ガイドラインでは梅毒と判断した場合にはHIVの検査も併せて行うことが勧められています。粘膜が弱くなっているために、他の性病にも感染しやすくなると考えられているからです。実際に私が診察した患者様の中で、梅毒に加え、クラミジア、淋菌といった性感染症に同時感染しているケースもありました。
☑️ 梅毒の治療
梅毒は昔は不治の病と言われ、恐れられていました。また、現在でも感染が進んだ第2期・第3期の症状の情報が先走り、非常に恐れられてしまっているように思います。
しかし、現在ではペニシリン系の抗生物質で完治が可能です。内服薬あるいは注射薬で治療します。
飲み薬
ペニシリン系の抗生物質を内服します。内服期間は病期によって異なり、2週間から最長8週間です。
注射薬
持続性のペニシリン製剤を筋肉注射します。注射部位からゆっくりと成分が放出されるため、血中濃度が長い期間持続します。
▶︎早期梅毒（感染機会から1年以内）の場合、1回
▶︎後期梅毒（感染機会から1年以上）の場合、週に1回、3週間
飲み薬も注射薬も治療後は約4週間ごとに採血で経過を見ていきます。また、パートナーがいる場合には2人揃って検査し、治療していくことが非常に大切です。
☑️ まずは今の状態を知ること
梅毒は今や、誰でも、いつでも感染するリスクのある病気になっています。もはや他人事ではなくなっているのです。感染の有無を知るためにする検査は採血のみです。まずは自分の状態を知るために調べてみてはいかがでしょうか。
